アイルランド出身シアーシャ・ローナン主演の青春映画レディバードは本当におすすめだ。
グレタ・カーウィグ監督の世界観が可愛いしファッションも素敵だ。
情緒溢れるサクラメントの田舎町、外の世界へ飛び立ちたい思春期特有の焦れる心、親の苦労。
全人類に地味に突き刺さる良作なのだ。
正直もし日本が最新映画のみならず、過去の良作を定期的にリピート上映してくれる上映館をシネコンの片隅にでも用意してくれるなら、この映画は待機リストにいつでも載せておいてほしい作品の1つだ。
レディバードあらすじ
2002年、カリフォルニア州サクラメント。
閉塞感溢れる片田舎のカトリック系高校から、大都会ニューヨークへの大学進学を夢見るクリスティン。
自称“レディ・バード”。
高校生活最後の1年、友達や彼氏や家族について、そして自分の将来について、悩める17歳の少女の揺れ動く心情を瑞々しくユーモアたっぷりに描いていく。
※Blu-rayの他、視聴サイト参照は以下にて
監督脚本&キャスト
dazeddigital.com
監督脚本 グレタ・カーウィグ/Greta Gerwig
役名 | キャスト |
クリスティン・マクファーソン Christine “LadyBird”McPherson | シアーシャ・ローナン Saoirse Ronan |
ジュリアン ・ステファンズ Julianne “Julie” Steffans | ビーニー・フェルドスタイン Beanie Feldstein |
マリオン・マクファーソン Marion McPherson | ローリー・メトカーフ Laurie Metcalf |
ラリー・マクファーソン Larry McPherson | トレイシー・レッツ Tracy Letts |
ダニー・オニール Danny O’Neill | ルーカス・ヘッジズ Lucas Hedges |
カイル・シャイブル Kyle Scheible | ティモシー・シャラメ Timothée Chalamet |
ジェナ・ウォルトン Jenna Walton | オデイア・ラッシュ Odeya Rush |
ミゲル・マクファーソン Miguel McPherson | ジョーダン・ロドリゲス Jordan Rodrigues |
シェリー・ユハン Shelly Yuhan | マリエル・スコット Marielle Scott |
青春映画だけれどもこの作品はファッションやインテリアもオシャレで監督が女性というのも納得の見栄え。
主人公演じるシアーシャ・ローナンはアイルランド人だけれどアメリカのアクセントも習得してサクラメントの普通の17の高校生としてすごく馴染んていたと思う。
本人的にはアメリカの発音でPerfectが一番難しかったのだとか。
そして誰もが気になるのがもしかしたら、プレイボーイなカイルを演じていたティモシー・シャラメかもしれない。
彼は『君の名前で僕を読んで』でエリオ・パールマンを演じアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた実力者だ。
個人的にはレディバードの母親を演じるローリー・メトカーフも好きだ。
気づいた人もいると思うけれど、彼女はビッグバンセオリーでメアリー・クーパー役をやっている。
そう、シェルドンの母親だ。
この作品が素晴らしいのは脚本もあるけれどやっぱり俳優陣の演技のレベルの高さにあると思う。
どのキャストもそれぞれ個性が光っていて見逃せない。
感想と解説
nymag.com
旅立ちの季節になると見たくなる作品。
二十歳前のティーンエージャー特有の謎の万能感と世間知らずな小童感がめちゃくちゃリアルで、故郷を離れて進学したことがある人間ならもう痛いほど主人公の心の動きが手に取るようにわかると思う。
分かりすぎて痛いくらいだ!
田舎出身なら特にそう。
自分はこんな何もない辺鄙な場所で終わる人間じゃない、素晴らしい大都会でもっと羽ばたくんだ!なんて思っちゃうわけだけど、親の経済状況も肉体的/精神的な負担も、何一つ気づくことがないっていうね。
それはしょうがない。だってそれが旅立ちの第一歩だもの。
ある程度誰もが通る道だし、社会人となって、そしていつか親となる日が来るとやっとわかるのだ。
あぁ自分はなんてお子ちゃまだったんだろうと。
でも、そんな経験があるから逆に故郷の良さも、親のありがたみも、自分の限界値も、全部わかるようになるのだから、無駄なあがきでも悪いことでもないのだと個人的に思っている。
そういう気持ちを再び思い出させてくれるのが映画『レディバード』だ。
主演のシアーシャ・ローナンが素晴らしい。
彼女を初めて見た時はなんて透明感のある女の子なんだろうと思ったし、アメリカ人にはない独特な存在感に目が離せなくなった。
レディバードでは大げさな芝居をするわけでもなく難しい年ごろのキャラクターをとても自然に演じていたが、それでも強い印象が残る。
監督のインタビューを聞くと、シアーシャ・ローナンの肌に目立つニキビ跡はメイクで隠さず十代らしい自然のままにしておいたそうだ。
ニックネーム”レディバード”の意味
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レディバードと言えばアメリカ人なら第36代大統領リンドン・ジョンソンの妻であるファーストレディーだったClaudia Alta Taylor Johnson(クローディア・アルタ・テーラー・ジョンソン)のニックネームを思い浮かべる人も多い。
ただ監督はこの事を知らなかったと言及。
脚本執筆中に自然とアイディアが出てきたそうだが、個人的にはクリスティンが狭苦しい鳥かごの中でジタバタしている鳥を自分の境遇と重ね合わせ、そこから今にも広い大空へと飛び出そうとしているじりじりとした心境を踏まえて自分の事をレディバードと名付けたのではないかと推測している。
そしてニックネームを自分でつけるという行為には親に”つけられた”名前に支配的は窮屈さを感じ、自分を本来よりも大きく見せる効果を自分の中で演出しているのではないか。
カトリック系の女子高生がピンクに髪を染めちゃってるあたり、反抗期真っ盛りなので痛々しい”レディバード”も恥ずかしげもなく自称できてしまっている。
日本にも中二病なんて言葉があるが、10代の頃は自分に恥ずかしい気取ったニックネームやらペンネームやらをつけるのはよくあることだ。
いざ田舎を飛び出しニューヨークにたどり着いたとたん、レディバードはハッと我に返り本名であるクリスティンを名乗る。
自分の世界で生きてきた人間がついに外の世界の現実に直面した様子が面白い。
どんなに遠くに行こうとも、自動的に人生が面白くわけではないのだ。
ただ、自分に自分でニックネームをつけて大成する人間がごくごく稀にいるのも忘れちゃいけない。
クリスティンは勉強もろくにしてないし、かといって人より秀でた特別な才能もないのだが、歌手のマドンナやレディガガ、エミネムなど唯一無地のスターネームを盾に世界的成功収める人もいるのも事実だ。
田舎から都会へと飛び出しアメリカンドリームを掴めるのは宝くじに当たるより低い確率だが、レディバードはおそらくごくごく普通の人生を送るように思う。
それがいいか悪いかでもないし、どちらが幸せかは、結局本人の生き方次第である。
ラストシーンネタバレ
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結末の締め方が個人的には好きだ。
ニューヨークに一人ぼっちになって初めて、自分の存在感の不安定さに戸惑うような仕草をする。
足元が安定せず、どちらの方向に向かえばいいのかわからないような仕草で終わるわけだけど、これから自分がどうして生きていったらいいのか居場所を求めるような不安な佇まいが伝わってくる。
これは知らず知らずのうちに家族の愛という保護シールドで守られていた人間が初めて自分1人のむき出しな状態になったときに初めて味わう感覚だ。
それでも人は自立していくのだ。
レディバードは母に会いたくてたまらないとは思うが、あの電話の後に挫けて帰省することなく新天地で踏ん張って欲しいと思う。
夢見がちな”レディバード”のまま痛い子としてNYでパンクにやっていったほうが案外うまくいきそうだが、現実を見てしまったクリスティンは果たして頑張っていけるのか、それは彼女次第・・・。
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